弁護士、司法書士、行政書士、税理士など士業と呼ばれる職業があります。しかし、それぞれの業務内容についてはあまりご存じない方が大半だと思います。そこで、本記事では、それぞれの職業についてと、相続相談をするならばどの士業の人がよいのかについて弁護士が説明します。

1 士業とは

士業とは、「~士」という名称の専門資格職の俗称です。サムライ業と呼ばれることもあります。一般的には、弁護士、司法書士、行政書士、税理士、公認会計士などがこれにあたります。これらの多くは国家資格であり、専門性の高い職業です。

他にも相続士や法務士といった「士」がつく資格もありますが、これらは民間資格になります。「~士」という名称の資格職業が必ずしも国家資格とは限らないことに注意が必要です。

2 各士業の①主な業務内容と②相続に関する業務領域

業務内容やその範囲は各士業によって異なります。以下では、それぞれの①主な業務内容と②相続に関する業務領域について見ていきます。

⑴ 弁護士

① 弁護士は、法律の専門家です。法律に関わるトラブル全般に対応することができ、その内容は多岐にわたります。具体的には、相続事件を始め離婚などの家事事件、民事、刑事事件全般など、法律に関する全ての領域を取り扱います。

② 弁護士の相続に関する業務領域は、相続全般です。相続人の調査から、遺産調査、遺産分割協議、調停まで、全てに対応することができます。ただし、相続税の申告は、税理士登録するか、税理士業務を行うことを国税局に通知した弁護士でなければ行うことができません。

⑵ 司法書士

① 司法書士は、不動産取得や会社設立の登記手続きの代理が主な業務内容になります。基本的には法律相談を受けることができません。司法書士のうち、法律相談を受けることができるのは、所定の研修を受けて法務大臣の認定を受けた認定司法書士のみになります。

ただし、認定司法書士が受けることができる法律相談は、簡易裁判所における訴訟手続の対象となる事件までです。つまり、訴額が140万円までの民事紛争に関する相談までしか受けることができません。訴額が140万円以上のものや、刑事事件の相談をすることはできません。

② 司法書士の相続における業務は、不動産の登記手続きがメインです。不動産の登記手続きは、司法書士のほぼ専権的業務になっています。そのため、不動産の所有権移転登記などがある場合は、司法書士が対応することになります。

その他にも、相続人調査や財産調査、遺産分割協議書の作成等を行うこともできます。遺産分割協議書については、作成のみが可能という点に注意が必要です。

⑶ 行政書士

① 行政書士の主な業務内容は、役所等に提出する書類や権利義務に関する書類の作成になります。行政書士は法律相談を受けることはできず、代理人として相手方に請求したり、交渉したりすることもできません。

② 行政書士の相続における主な業務は、相続人の調査、相続関係図の作成、遺産分割協議書の作成になります。遺産分割協議書については、作成のみが可能という点に注意が必要です。

⑷ 税理士

① 税理士の主な業務内容は、税務代理、税務書類の作成、税務相談です。

② 相続手続きにおける税理士の業務は、相続税の申告、準確定申告がメインです。相続において、相続税が発生することはあまりありませんが、遺産額が莫大な場合には相続税が発生し、その申告が必要になります。相続税がどのくらいになるのか、申告方法がわからない、節税を行いたいといった場合に対応しています。

⑸ 公認会計士

① 公認会計士の主な業務内容は、決算書類等の監査、税務、コンサルティングです。基本的には、監査が必要な大企業向けに仕事を行うことが多いです。

② 相続における公認会計士の出番は多くはありません。遺産のなかに株式があり、その評価額を明確にしなければならないとき、会社の事業継承が必要なとき等に活躍します。

⑹ 弁理士

① 弁理士の主な業務内容は、国内外における所有権や特許の取得です。

② 相続において、弁理士が業務を行うことは滅多にありません。弁理士が仕事を行うのは、被相続人が特許を取得していた場合です。

3 ケースごとの適切な相談先

⑴ 相続人の調査のみをしてもらいたい場合

相続人の調査のみをしてもらいたい場合は、行政書士、司法書士に依頼することも可能です。しかし、調査の結果、紛争が生じたり、他の相続手続きが発生する場合もあります。そうした場合に、行政書士や司法書士ではできない業務が発生した場合には、弁護士に依頼する必要がでてくることもあります。二度手間を防ぐためには、初めから弁護士に相談する方がよいでしょう。また、行政書士、師匠諸氏に一度相談してみて、さらに相続手続きが必要になる場合は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。

⑵ 紛争が発生する可能性が高い場合

相続では、親子間、兄弟姉妹間の確執が露わになったりするため、紛争が多い分野です。何らかのトラブルに発展することがあらかじめ予見される場合は、弁護士に相談しましょう。

⑶ 遺産分割協議書の作成を行いたい場合

相続人の間で遺産分割協議は円満に終了したけども、遺産分割協議書の書き方がわからないという場合は、行政書士もしくは司法書士への相談がおすすめです。書類作成のみであれば費用が比較的安価です。

⑷ 遺産分割協議の交渉をしてもらいたい場合

遺産分割協議がまとまらない、仲介役をしてほしいという場合は、弁護士に相談しましょう。遺産分割協議において交渉や代理を行うことができるのは弁護士のみになります。また、遺産分割協議がまとまらず、調停、審判に発展する場合もあります。この場合に対応することができるのも弁護士のみです。何か不安がある場合は、とりあえず弁護士に相談することをおすすめします。

⑸ 不動産の登記手続きをしたい場合

遺産分割協議がまとまり、不動産の登記手続きが必要なる場合は、司法書士に相談しましょう。

⑹ 相続に関する手続きを全て任せたい場合

相続に関する手続きを全て任せたい場合は、弁護士に相談しましょう。弁護士は法律の専門家で、相続全般に対応しています。もし、財産額が大きく、相続税の申告が必要になりそうだと事前にわかっている場合は、税理士資格を持った弁護士に相談すると、相続税の申告まで任せることができます。

⑺ 相続放棄をしたい場合

相続放棄をしたい場合は、弁護士または司法書士に相談しましょう。相続放棄をするか迷っている場合は弁護士に相談しましょう。行政書士は相続放棄に必要な書類を作成することができません。この場合は行政書士に相談しないように注意しましょう。

⑻ 相続税の申告をしたい場合

相続税の申告をしたい場合は、税理士または税理士資格を持った弁護士に相談しましょう。相続税の申告は自分でできないことはないですが、場合によってはかなり複雑な計算や手続きが必要になります。相続税がかかりそうな場合は、必ず相談しましょう。

4 おわりに

各士業の業務領域は似ているようで細かく異なります。

適切な相談先に迷った際は、とりあえず法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

記事の監修者:弁護士 川島孝之

アロウズ法律事務所の代表弁護士川島孝之です。
これまで多くの相続事件を手掛けてきました。職人としての腕と、サービス業としての親身な対応を最高水準で両立させることをモットーとしています。